外国語学部

私の留学体験 秋山紗恵子

2007年3月から2008年1月まで約10カ月間交換留学生として大連外国語学院に留学してきました。学校や授業の紹介は他の学生たちが詳しくしてくれているので、私は自分の感想や体験を中心にまとめてみたいと思います。

美しい都市大連

大連は中国では香港・北京・上海などに次ぐ大型都市で、経済水準が適度に高く、人口は多過ぎず、空気も比較的きれいで、またバスなどの公共の乗り物が発達しているため交通はあまり混雑することがありません。「緑化都市」、「北方明珠」としても知られる大連は、海に面した観光名所の多いとても美しい都市です。

「習うより慣れろ」

日本で中国語を勉強していた頃、私は先生方の発音とテープしか聞いたことがなく、ちょうど標準語の中の標準語だけを聞いて方言の全くない無菌室で育ったようなもので、そのため大連に着いたばかりの頃、授業はほとんど全て聞き取れたものの、一歩学校の外に出れば聞こえてくる中国語は速いうえにイントネーションに方言のなまりがあるため、とても聞きにくかったのを覚えています。また、私がいた高級班の授業では文章語や成語を中心に習うのですが、始めは語彙が足りず予習のとき悪戦苦闘していました。しかしそれでもしばらくすると、耳も目も慣れ、リスニング力は向上し、それとともに方言に対する免疫もだんだんできていき、文章語の必要最低限の語彙もすぐに身に付きました。「習うより慣れろ」ということですね。語学留学を考えている皆さん、心配しなくても大丈夫、何とかなります!

びっくり体験

以前の私は「語学は毎日こつこつやるしかなく、ある日朝起きたら突然ペラペラになっていた!な〜んてことはあり得ない」とばかり思っていましたが、中国留学中に私はこの考えを覆えす体験をしたことが2度あり、自分自身が一番驚喜しました。

それは私が一番苦手とする会話と朗読の急激な上達でした。

1度目は第2学期の初日にクラスメートの前で自己紹介をしたとき、一度もひっかかることなく言えたことが始まりでした。第一学期何をしゃべるにもまず先にしばらく考えてからひと言ひと言どもりながらしか話せなかったにもかかわらず、これを機にこれ以後、どもらずに流暢にしゃべれることがどんどん増えていきました。

2度目は第二学期の後半頃、朗読が相対的に下手であることに思い悩んでいたとき、突然朗読が上達し始めたのが始まりで、その後1週間くらいは日に日にめきめき上達していき、なんだかそれまで口にかかっていた余分な力が抜け面白いように軽やかにすらすら読めるようになっていきました。クラス担任の先生も「秋山さん、最近朗読が上手くなりましたね。」と褒めてくれました。それまで1度も朗読のことで褒められたことがなかったので、とても嬉しくて今でも鮮明に覚えています。

話はちょっと変わりますが、北九大のある先生に「中国語が上達するこつは何ですか。」と伺ったことがありますが、先生は「1度何もかも忘れて中国語の学習に没頭してみたらよいかもしれません。私の経験から言うと、それまでの蓄積があって、ある日突然ぐっと伸びることがあるようですね。」とおっしゃっていました。

留学に行く前は、留学に行けば語学力は伸びるとは聞いてはいたものの、それまで私は3年間日本で中国語を勉強していたので、語学力の向上という面ではあまり期待していませんでしたが、大学1年次よりも上達の早い10カ月でした。

語学力を向上させたければ中国に留学に行って中国語の勉強に没頭してみるとよいかもしれませんね。こんなびっくり体験ができてしまうかもしれませんよ。

HSK

HSKとは中国語レベル試験のことで、各国の中国語学習者や中国の少数民族が取得することのできる公的中国語資格試験です。今旧式と新式のHSK試験が併行して実施されていて、ややこしくなっているので、ちょっと紹介したいと思います。

旧式とは従来のHSKのことで、成績はリスニング、閲読、作文、会話の総合であるのに対し、新式は成績評価の方法と問題形式が異なっています。新式ではリスニング・閲読、作文、会話の3つに分けられており、成績もそれぞれ別々に出てきます。また、新式では初等は廃止され、中等は4級(旧式の6級に相当。以下旧式での相当等級だけを表示)、5級(7級)、6級(8級)に、高等は7級(9級)、8級(10級)、9級(11級)にそれぞれ分けられています。HSKについては、以後新式しか実施しなくなるとか、やはりしばらくは旧式も実施するとか、韓国では新式のHSKは無効だとか様々な噂がたっています。私はどちらも参加し、旧式は9級、新式はリスニング・閲読が7級、作文が8級、会話が7級という結果でした。私の個人的な感想を述べさせてもらえば、新式のリスニング・閲読の試験は新式と比べ時間がだいぶ長く、その上特に難しく頭を抱えました。また、初中等と高等を比較するならば、初中等は基本的な精確さを試すもので、高等では精確さはさほど要求されず、その代わりに決められた短い制限時間内に素早く処理する力が重視されているという感じを受けました。私は可能ならば旧式も新式も受けてみるのがよいと思いますが、どちらか1つということだったら旧式をおススメします。

目標―中国人みたいにしゃべれるようになりたい!

以前1度大連市主催の中国語スピーチコンテストを見に行ったことがありました。そのスピーチコンテストの参加者は皆外国人で、小学生の部、中学生・高校生の部、大学生の部の3つに分かれていましたが、興味深かったのはレベルがずば抜けて高かったのは実は小学生で、中高生のレベルもなかなか高かったのですが、大学生のレベルはだいぶ落ちるということでした。授業で外国語の学習には適年齢があり、やはり小さい頃から始めたほうがいいと習ったことがあります。一般に子供は母国語を「聞く→話す→見る→書く」という順に学びますが、第2外国語を特に大きくなってから習うと「見る→聞く→書く・話す」のように理論先行型になり、自然な言語習得順序とは異なってしまいます。

「声調も発音もイントネーションも全部だいたいあっているはずなのに、でもなんだか本物の中国人のしゃべる中国語とは違う!!」というのが留学中の私の悩みでした。いつか学校の先生やアナウンサーのような朗読調のしゃべり方ではなく、一般の中国人のような自然なしゃべり方を身に付けて、中国人としゃべっても外国人と気付かれないようになりたいと思い、どうして私の中国語と中国人のしゃべる中国語は違うのか、どうすれば中国人のようにしゃべれるようになるのか自分なりに考えました。

私は違いを生じる原因の一つは日本語のなまりにあるのではないかと思います。留学してみて初めて気が付いたのですが、各国の留学生のしゃべる中国語にはそれぞれ彼らの母国語のなまりがあり、誰がしゃべっているのか見なくても、韓国人がしゃべっている中国語なのか、ロシア人がしゃべっている中国語なのか分かってしまうのです。私は自分が日本人なので、日本語のなまりはすごく感じにくいのですが、中国人の先生はよく私に「日本人のしゃべる中国語は硬い。」と言っていました。その先生によれば日本語のなまりはすごく取れにくく、普通中国に10年ぐらいは住まないと直らないのではないかということでした。こういうことを意識し始めてから気付いたのですが、日本人のしゃべる中国語は1語1語が重過ぎるし、先にばっちり声調の理論を学び訓練しているせいもあってか、角張っていますが、これに対し中国人のしゃべる中国語は声調を全く意識せずにしゃべられているためか、繋ぎ目が丸味を帯びとてもなめらかです。そして私が思い付いた日本語のなまりを取り除く方法は、まだ言葉を覚えていない小さな子供のように、一語一句聞き漏らさぬよう集中して中国人のしゃべる中国語を聞き、それをすぐ自分の心の中で、時には声に出して復唱し、中国人の実際の言い回しを消化する、そしてこの過程を蓄積していくということでした。

余談ですが、そういえば、以前私が中国語を教わっていた中国人の先生の中に、おそらく日本語の出来る中国お人の中でもトップレベルだろうと思えるほど日本語がお上手な先生がいらっしゃいました。その先生にも「語学上達のこつは何ですか。」とお伺いしたことがあるのですが、先生から返ってきた答えはちょうど私が上で述べた方法と同じでした。

もし本物の中国人のように自然にしゃべれるようになりたいと思うのなら、是非この方法を試してみてください。

感想

東京オリンピックが日本で開催されたのは1964年、周知の通り、今年2008年にはいよいよ北京オリンピックが開催されます。私は中国の現状を目の当たりにして、中国は日本の50年前くらいに似ているのではないかと思うことがよくありました。かつての日本がそうだったように、高度経済成長を続ける中国には、今取り上げられているマナーの問題などの歪みがまだ至る所に点在しているという感じを受けました。こういった中国の現状は中国に留学する以前から理解していたことなので、実際に目の当たりにしても驚くことはあまりありませんでしたが、「知っている」ということと「実際に長期間体験する」ということはまた別のことで、私はそういった歪みにうまく対応することができず、それらは少しずつ私の中に積もっていきました。これが本当の意味での「体験」ということなのかもしれません。またそれと同時に中国社会に身を置くマイノリティーである日本人としての私のナショナリズムは高まっていきました。くだけた言い方をすれば、要するに日本人であることを誇りに思い、日本の良さを再認識したということです。またこのことを機に、日本人にはナショナリティーが欠けているのではないかと思いました。多くの中国人が4000年の歴史と文化を誇りに思い、自分が中国人であることに胸を張っていますし、もしかしたら世界中の多くの民族がこうなのかもしれません。この点私たち日本人は中国に習わなければいけないのかもしれません。

留学

3度も4度も留学する人はめったにいませんし、この10ヶ月間は私の一生の中でも特別な位置を占めると思います。中国人だけではなく、各国の留学生と一緒に中国語を学んだり、中国語で会話し交流したりできる国際的な環境が当たり前に身近にあった不思議で、また濃い有意義な留学生活だったと心から思います。また機会があれば、もう1年くらい留学したいと思っています。留学はいいですよ。ご精読どうもありがとうございました。

keyboard_arrow_upTOP