外国語学部

ある留学生の中国見聞録(2002年9月14日於中国・大連外国語学院) 前田晃良(中国語専攻4年中国大連外国語学院派遣留学生)

はじめに。

大連での生活について書いて欲しいとは言われましたが、もう1人の交換生と内容が被ってしまいそうな気もするので、あえてここでは2002年夏、一ヶ月と一週間、中国国内をちょいとばかりぶらついた際に立ち寄った都市や場所を、独断と偏見に満ちた感想を添えて語らせていただきます。八月末、半ば追い出されるような形で宿舎を出ることとなった僕はせっかくだから時間の有効活用をしようと、金と時間の限り中国国内をさすらってみることにしました。

中国の知識がまだまだ乏しいのもあってかなり不安でしたが、物事って何とかなるものですね、こうしてちゃんと生きて帰って来ることができました。それでは訪れた町を、順を追って紹介させていただきます。

1.黒龍江省・ハルピン

中国最北端にある黒龍江省の省都です。人口は約570万人。街中には欧風の建物が未だ数多く残っていて、確かにえらい小洒落た印象がありました。東方のモスクワだとか小パリだとか呼ばれているらしいですが・・・正直なところ、それ、ちょっと言いすぎ、だと思います。

この町の雪祭りはかなり有名です。「ハルピンに行くなら冬だ!」と言われるのになぜ夏に行ったのかといいますと、だってここ、ビールの名産地なのです。ビールが旨いのはやっぱり夏でしょう!でも、その意気込み空しく行った時は曇りでした。

2.吉林省・延吉(長白山)

東北三省の中間に位置する吉林省・延辺朝鮮族自治州の州都です。人口約45万人。この辺りには朝鮮民族が多く住んでいます。町にはハングルが溢れていると同時に朝鮮語が通じると言うなんとも不思議なところでした。中国語のヒアリングにならないなー、と町を歩いているとそう思えました。

ここに立ち寄った理由は、満州族・朝鮮族が聖地として崇める山;長白山に登るためでした。バスに揺られて5時間半、ようやく辿り着いた長白山の天気は雨。なんてこった、これじゃ著名な火口湖を見る事ができんやないか。せっかく来たのだから、と山頂まで登ってきた正にその時!それまであたり一帯を覆っていた霧が、三文ドラマとかなんとかによくありそうだけど、嘘のように晴れたのでした。

いやー、あの光景は素晴らしい!の一言に尽きます。苦労して行った甲斐があったというものです。

3.吉林省・図イ門

北朝鮮との国境に位置する小都市です。見てきました、北朝鮮の地。写真を撮ろうしただけでお金を請求されたのでこっそり撮りました。

4.内蒙古自治区・フフホト

フフホトの名は「青の城」を意味するモンゴル語に由来します。標高1000メートルの内蒙古高原の只中にあるので鼓膜がおかしくなる人、つまり僕みたいな人もいます。個人的にはその名に恥じぬ青い空を見たかったのですが、僕が行ったときに限って内蒙古には滅多にないという大雨に見舞われました。思えば、このあたりからマエダ雨男説が流れ始めたのでした。

この町の規模は、自治区都であるにもかかわらず意外と小さい人口100万人強。蒙古族が多く住まうため、街には漢字と同量のモンゴル文字が表記されていました。また、内蒙古と言えば何と言っても草原!僕を歓迎してくれたのはかねてからの憧れであった見渡す限りの草原と降ってきそうな青空ではなくて雲の海。やっぱり天気が悪かった。まあ草原滞在二日目には晴れましたが。

そして内蒙古ではモンゴル料理がとても美味しかった!!好き嫌いのない僕はたらふくモンゴル草原で元気に育った羊さんたちを吟味しちゃいました。うまかったなあ。

5.山西省・大同

山西省第二の都市で、人口は約100万人。中国三大石窟の一つにして世界遺産たる雲崗石窟ほか多くの文化遺産を擁する文化都市である一方、近隣諸都市をエネルギー面から支える炭鉱都市でもあり、両者が渾然一体となっているあたりが不思議な感じでした。

僕が訪れたときは正に町全体が工事中で、そこに石炭の煙が加わってもう空気の悪いこと悪いこと!鼻毛が通常より3倍は早く伸びそうな環境でした。

この町にはいわゆる"中国の昔ながらの生活"が強く残っていて、数多の文化遺産もさることながら、僕はこちらの方にもえらくビックリしました。雲崗石窟を目にしたときの感動を、どう表現すればいいのか判らないのですが、あえて強引に表現するならば、「風の谷のナウシカ」でオームがペジテのセンタードームを食い破った時のような感じでしょうか。

6.山西省・太原

山西省の省都で、人口は約320万人。とかく広い町で、移動にかなり時間を食われました。

僕は個人的にこの町が好きなのですが、大した見所はありません。単に町の雰囲気が好きとでも言いますか。この町にある山西大学の留学生寮がとてもきれいで、ここで知り合った日本人留学生と仲良くなれました。そしてやっぱり一緒に飲みました。楽しかったです。

7.山西省・平遥

なんと町自体が世界遺産!明代の城壁と街がそっくりそのまま残っています。まるで巨大な映画セットに入り込んだかのようでもあり、町ごと丸々タイムスリップしたような感じでもありました。

ただ残念と言うか何と言うか、街にあるのはお土産屋さん・食堂・旅館のいずれかで、町の住民が老若男女大挙してものを売りつけてくるあたりがイヤでした。

8.河南省・洛陽

この都市の名は「三国志演義」によく登場します。かつて九つの王朝がこの町に首都を置いたため、こちらにも沢山の旧跡が残されています。人口はおよそ600万人。観光都市としてかなり綺麗に整理されていた、という印象があります。

この町の目玉は何と言っても中国三大石窟にして世界遺産!;竜門石窟ではなかろうかと思います。こちらの石窟は、先に挙げた雲崗石窟とはまた違った独特な雰囲気があり、よい雰囲気を醸し出していました。

洛陽の近郊には見所が沢山あるのですが、とにかく"○×寺"がいっぱい。寺の見すぎで疲れるなんていう経験はもう二度とないのではなかろうかと思います。また、この町の料理が結構イケました。中国原産の黒ビールに初めて出会ったのもここでした、味は大したことないのですが。なんだかビールの話ばかりしていますね。

9.河南省・嵩山(少林寺)

中国山岳信仰の対象となっている「五岳」の一つで、"中岳"とも呼ばれているらしいです。また、ここは禅宗発祥の地でもあります。

この山にあるのがかの有名な"少林寺"。生の少林寺拳法を見てきました。が、悲しいかな、かつて唐王朝の成立をその鍛え磨いた肉体と拳法を以って助けた少林寺拳法も、今は観光化が進んでいるのでしょうか、只の見世物になっているような気がしてなりませんでした。まー、十分に面白かったんですけどね。やり過ぎってくらい演出が凝っていました。ついでに薀蓄たれると、少林寺拳法はどちらかと言うと少数派で、多数派には太極拳などの流派がそれに当たります。

10.河南省・鄭州

"中原"の中心に位置する河南省の省都です。人口はおよそ600万人。現在確認されている中国最古の王朝「殷」代の遺跡が残っています、が、この遺跡というのが何ともちゃちなものでした。ひどい扱いを受けている、と言った方が適切かもしれません。

「殷代城壁跡」と言う看板があるだけで、後は野ざらしです。3500年の歴史は雨風にさらされるがままでした。しかもなぜか公衆便所がちかくにあるから臭いのなんの。

この町の郊外には、また、黄河遊覧区なるものがあったので見てきました。黄河の色って本当に黄色いんですよね、あの水が流れ込むならそりゃ海も黄色くなるわ、と、そんな感じでした。そして、僕はここで日本語を勉強していると言うなぜかブルネイ人と知り合いました。

市内の鄭州大学を訪ねたとき、ここで知り合った日本の外国語会話専門学校「NOVA」の短期留学生の方々に大変お世話になりました。人の温かみにボク、感動。で、この鄭州という町、中国でも交通の要所に当たります。列車の寝台切符は一週間以上前に予約をしておかないと手に入らないと聞きました。

八方手を尽くしても寝台切符が手に入らなかったので仕方なく次の目的地まで等級の低い座席(硬座)で移動。友人にはまる二日間とか、もっと苦しい思いをした人もいますが、僕には10時間だけでも十分に応えました。

11.江蘇省・南京

江蘇省の省都で、人口520万人の大都市です。宋・明を初めとする10の王朝がここを都に定め、明代の城壁や多くの見所がありました。町は清潔かつ整然としており、人々の感じもよく、今回の旅で訪れた都市の中でも特にお気に入りの部類に入ります。

この町は長江に隣接していて、この世界第三位の全長を誇る川にかかる巨大な橋を見る事ができます。シーズンということもあって街には多くの観光客が訪れていました。

南京大学は2002年が丁度創立百周年にあたるらしく、特設のお土産物屋さんでしこたま買い物をしてしまいました。実はこのときこのお店に大金の入ったお財布を忘れてしまって、数時間後に慌ててもどってくると、ここのおばちゃんがちゃんと保管してくれており、いたく感動してしまいました。なお、どうでもいいことなんですが、僕はこの町でめでたく22歳の誕生日を迎え、なぜかブラジル料理でお祝いしました。

12.江蘇省・蘇州

マルコ=ポーロが"東洋のベニス"と絶賛したと言われる水郷の町です。中心部は中国の伝統的な建設様式が近代の技術と見事に融合していて、よい雰囲気を醸し出していました。中心から一歩でも外れるとそこには雑多な中国の町が広がっていましたが。

但し、上海に隣接しているというそのアクセスし易さからか、僕が訪れたときは観光客が多すぎました。せっかくの雰囲気が台無しでがっくりしました。しかもこの堀、生活廃水が垂れ流し。夏なのでモチロン蚊は大量発生。思い描いてきた蘇州像と現実との落差に唖然としました。また、僕はこの町でやはり大雨に遭遇。雨男説は自信から確信に変わりました。

13.浙江省・杭州

「上に極楽あり、下に蘇州・杭州あり」として、蘇州と並んで美しいと称される街です。浙江省の省都で、噂どおり美しい街でした。

この町で僕はめでたく中国自転車デビューを果たしました。快適なスピードで湖を一周。かなり爽快!この湖、"西湖"と呼ばれ、その美しさには大変評判があります。この絶景を横目に駆け抜けるすがすがしさは最高です!

ここでは浙江大学の留学生寮を訪ねたのですが、とにかく綺麗!近代的!巨大!我が北九大のひびきのキャンパスも真っ青!北方は・・・。正直、羨ましかったです。

14.直轄市・上海

言わずと知れた「不夜城」。人の好みにもよると思いますが、僕はこの町が大好きです。人口約1400万人、政府の直轄市にして中国の最先端を走る「中国の牽引車」。「昔の中国が残ってないからあまり好きじゃない」と言う人もいますが、今、北京とならんで中国でもっとも変化の激しいこの町は、ある意味中国を象徴していると言えるのではないでしょうか。"昔の中国"と呼ばれる所だって残っていないわけじゃあありません、郊外には水郷の町が数多く点在していますし、近代的な町並みの中に忽然と昔ながらの"アジアの喧騒"が出現します。何を隠そう、僕はこの喧騒に憧れて中国語を学ぼうと思ったのです。

第二次対戦前、この町は欧米列強の租界となりました。今も当時の建物が多く残っており、レトロな雰囲気を楽しむ事ができました。その一方でアジアNo,1の高さを誇る東方明珠塔(テレビ塔)をはじめとする高層ビル群は、上海のどこにいても見つける事ができるため、道に迷うことがないくらいで、近代的な町並みを堪能する事もできる一面も持っています。

大手コンビニエンスストアの"ローソン"や、僕が二年以上もの間バイトを続けた"モスバーガー"も出店していました。馬鹿な話ですが、なぜか日本が絡んでいるといつもより沢山思わず買い込んでしまいます。そんな感じで非常に暮らしやすい町でした。

15.直轄市・北京

実は三度目の訪問、人口約1100万人、皆が知っている中国の首都です。2008年のオリンピック開催に向けて、今急ピッチで開発整理が進んでいて、二年前に訪れたときに比べても非常に整理されていたような気がしました。

この北京、広すぎるんですよね。とにかく巨大な町です。同じ市内で地図ではちょっとしか離れていないのに・・・実際に移動するとなるとかなり時間を食われます。で、いつも北京に来ると絶対に行ってしまうのがスタバこと「スターバックス・カフェ」。上海や杭州にもあるけどなぜか北京では通いつめてしまいます。中国の物価と比較して、コーヒーはやや高めの値段設定で、コーヒー党の僕としてはやっぱり聞き覚えのあるところに足を運んでしまうわけです。値段が高めなことについては、中国人の友人はコーヒーよりもお茶を飲むから・・・と言っていました。

さて、かの有名な万里の長城や故宮は参観済みでしたので、今回は雍和宮(ラマ教寺院)と盧溝橋を訪れました。午後、宿舎(北京理工大学の留学生寮)から雍和宮までゆっくりと歩いていったら、3時間くらいかかったでしょうか、入場時間を過ぎてしまって入場できず、とても悔しかったので外から見てやろうとしたのですが見えませんでした。いわゆる"くたびれもうけ"と言う奴ですね。寺の真向かいに地壇公園と言う見所があるのですが見る気が起こらず地下鉄で帰りました、所要時間は約30分。最初から使えよ・・・と後でこっそり思いました。

翌日、気を取り直して一路、盧溝橋へ。清代にかけられたと言うこの橋の中央には当時の石畳が残っているんです。立ち入り禁止と書いてあるにもかかわらず中国の方々は普通に立ち入っていました。こんなことでいいのかー?・・・にしても本当に疲れる町だったなあ・・・でかすぎて。

16.遼寧省・大連(留学先)

一ヶ月以上離れていた、麗しき我が留学先です。人口は約530万人、町はこぢんまりとしていて、かなり綺麗です。というのもこの町、貿易港として優位性があるため、日本をはじめ多くの国が資本投下を行い、「北方の香港」との異称でも呼ばれます。治安はまずまずで、外国人にも非常に暮らしやすい環境が整っていると思います。留学先としての不満点をあえて挙げるとするならば「日本人が多い」、この一点に尽きます。だって街中のデパートでは普通に日本語のアナウンスが流れてきますし、日本の商品もお金さえ出せば手に入ります。とは言え、"MadeinJapan"は一種のブランド品のような扱いで、現地の物価と比較するとめちゃくちゃ高いのですが。このような状態ですから、その気になれば日本と変わらない生活ができるんです。

また、この町には"コミュニティFM"なるものが存在していて、福岡市周辺で放送されている「FMMimi」で毎週土曜日午後一時に放送されている番組と情報交換をしているようです。と、言いますか、僕、コレに出演した事があったりします。旅行から帰ってきたばかりなのでまだ連絡が取れていないのですが、もしかすると継続出演するかもしれません。もしお聞きになる事があれば、「あーこれがあのふざけた奴の肉声か」とでも思っておいてください。

おわりに。

長々とお話してまいりましたが、こんな感じで僕は夏休みを過ごしました。これだけ回ってもその範囲は中国の四分の一に達していません。とにかくやたらと広い国です。内陸に足を運んだら一体何があるのか冗談抜きで分かりません。なお、僕が去った次の日からフフホトはこれ以上ないくらいの快晴になったらしく、前田雨男説はこれで実証されてしまったとか。

「これからはアジア(中国)の時代だ」等と言われだしてはや30年経過しましたが、僕の感想を率直に述べさせていただくならば、この国から"これからの国"と言う冠を取るにはまだまだ時間が必要でしょう。 但し、1979年からの"改革・開放政策"実施によって、事実上中国は驚異的な発展を続けていますし、2008年には北京オリンピックを控えています。中国と日本は隣国で、中国との関係なくして日本の将来像を描く事は出来ません。多くの希望と問題とを同時に孕んだ今のこの中国は、ハッキリ言って「面白い!」。いわば21世紀前半のハイライトです。

時間の限られた大学時代に中国語を専攻として選んだ選択は間違いなかったと思っています。え?本当か、ですって?「百聞は一見に如かず」と申します。自分で見聞きするのが一番カンタンかつ信頼できます、騙されたと思って来てみてください。

ようこそ!怒涛の中国へ!!

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