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SDGsと法学部の取り組み

「社会の誰も取り残さない」

公正な社会秩序や、理想的な民主主義を目指す法学部の理念と、SDGsの理念は、深く響きあいます。

SDGsの目標

教育実践や研究活動を通じて、法学部ではSDGsの達成に向けた精力的で地道な努力を、各教員が行っています。

ここでは、いくつかの代表的な取り組みをご紹介します。


法律学科での取り組み

岡本舞子講師 (労働法)
SDGsと労働についてのワークショップ
(労働法専門演習Ⅲ・2021年度)

 SDGsとは何か、SDGsと労働法や労働問題との関連を知ってもらうために、ゼミの中でSDGsと労働についてのワークショップを開催しました。

 SDGsの概要を教員から説明した後、ゼミ生がグループに分かれ、SDGsと関連する身近な事柄を見つけるワーク、SDGsと関連する労働問題・労働法政策を挙げるワークに取り組み、SDGsという「未来のかたち」から見たときに労働法分野にどのような課題があり、どのような解決策が考えられるかについて議論しました。

教員の声

 学生自身が、個別の労働法政策をSDGsと関連づけることで、労働法上の問題の多面性を再確認することができました(例えば、「同一労働同一賃金」の問題は、貧困、ジェンダー平等、働きがい等に関連する)。

 また、既存のわが国の労働法の枠にとらわれず、より広い視点から労働法が解決すべき課題を発見することにつながりました(例:採用におけるルッキズム等)。SDGsという大きな視点・多様な視点から労働法を考えると、自由な発想が出てきやすく、活発な議論につながると感じました。

水野陽一 准教授 (刑事訴訟法)
人権保障に照らしたAI(人工知能)の社会実装に関する研究 (2018年度〜現在まで)

 きたるAI社会の実現を見据え、AIのアルゴリズム、運用システム構築の際に、憲法上の原則である個人の尊重を中心とした人権保障の理念を組み込んでおくことの必要性を検証しています。具体的な社会における実装のあり方について、ユースケースを踏まえて法学的視点から検討することなど、諸課題に向き合い、教育にも還元しています。

 その他にも、次のような取り組みを行っています。
• 福岡地方裁判所小倉支部連絡協議会 (地域の司法関係者との協同、公正、正義関係)
• 菊池事件弁護団への協力 (ハンセン病に対する差別の解消)
• 愛知県弁護士会 弁護団への協力 (個人情報の保護関連 公正、正義関係)
• 差別を理由とする誤判に対する救済、刑事手続における人権保障のあり方などをテーマとする他大学(広島大学、熊本大学、松山大学)との討論会、交流会

教員の声

 様々な分野におけるAIの重要性が言われています。しかしながら、AIには人間の自律性、憲法上の重要原理である個人の尊重を損なわせる危険性も潜んでいます。AIの判断により、個人が不当に損なわれない仕組みを検討することがAIを用いた社会の持続的発展に不可欠なのです。法による規制枠組みを作ることはその有効な手段の一つと言えるでしょう。

学生の声

 最新のテーマであるAIに関わる問題と、一見古い制度である司法とが密接に関わるものであるとは思わなかったです。AIを人間の方に向かせることは、豊かな社会の持続的発展に欠かせないと考えます。

AIと司法の挑戦
国際会議「AIと司法の挑戦」(韓国・ソウル)
国際的な専門性に着目した試み
土井和重 准教授(刑法)
ニュルンベルク模擬裁判を通じた国際刑法・国際人権法の教育

 SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」と関連して、国際刑法をテーマとする世界的な学生コンペ「ニュルンベルク模擬裁判」(Nuremberg Moot Court:主催・International Nuremberg Principles Academy)の実施に参加・協力し、併せて本学法学部生と法学研究科大学院生にその内容について講義を行いました。

 第一回目の試みとなる課外授業では、2021年度の模擬裁判で実際に取り上げられた架空の事案を素材として、人道に対する罪等を規定するローマ規程の内容と国際刑事裁判所(ICC)の管轄について導入的な説明を行い、重要な論点の解説を通じて国際刑法の実践の一端に触れてもらいました。当日は、15名の本学学部生・大学院生に加えて、明治大学や筑波大学など他大学からも20名ほどの学生・教員にオンラインで参加してもらい、積極的に意見交換を行うことができました。日本国内で国際刑法の指導経験がある研究者からも国際刑事裁判所の最新の動向を紹介してもらい、「不処罰の歴史の終結」と国際社会における「法の支配」の実現がアクチュアルな問題であるという認識を共有することができました。

 実際の模擬裁判には裁判官役で参加し、平和の実現という困難な課題に挑戦しようとする世界中の法学徒たちと、ICCの実務に携わる法律家たちの強い想いに直接触れることができました。今後も、国内外の専門家や実務家の協力を得ながら、通常の講義やゼミの中で、国際刑法の問題を積極的に取り上げていきたいと考えています。その上で、将来日本からチームを派遣する可能性についても模索したいと考えています。

教員の声

 地球上の「すべての人々に司法へのアクセス」を保障し、関係者の「説明責任が十分に果たされる」ために、世界中の法律家や専門家が不断の努力を続けています。日本も国際刑事裁判所に加盟し、財政面、さらには歴代3人の裁判官を送り出す形でその活動を支えていますが、組織全体への人的貢献はそれほど大きくないといわれています。まずはこの模擬裁判に参加することから、国際刑事裁判所体制への日本の人的貢献の可能性を広げていければと考えています。

学生の声

 世界史や法学の知識、英語力と多角的な知識が必要だと思った。難しそうだが、チャレンジすると大きく自分のスキルアップにつがると思った。


政策科学科での取り組み

三宅博之 教授 (途上国開発論)
2030年・2050年に向けてESD(持続可能な開発のための教育)
をさらに深く知ろう!

 2020年度は、フードバンク北九州ライフアゲインとの連携で、高校生を対象としたスタディ・ツアーの実施、フードパントリー(学生への食糧配布)の実施、北九州もったいないっちゃ!すごろくの制作、石垣島・沖縄本島への環境・平和学習スタディ・ツアーなどを行いました。

教員の声

 新型コロナ禍により、私たちの生活様式が一変しました。その中で、教育はいかに成果をあげるべきなのかを考える必要があります。価値、方法、養成能力をきちんと明示しているESD(SDGs教育)を通して、それを追求していきます。また、学生の声をゼミ論集としてまとめています。

田村慶子 教授 (アジアのエスニシティ政策)
JICAを通じた政界の行政官との交流事業

 2021年度3年ゼミでは、JICA(国際協力機構)主催「世界の行政官のジェンダー主流化研修」に参加する10か国10人の若手国家公務員と、5月29日(土曜)にオンラインで交流会を実施します。

 ゼミ生は8人は、”Country Report JAPAN through the eyes of Japanese University Students"というテーマの下、日本のジェンダー問題を、「メディアとジェンダー」「政治とジェンダー」「教育とジェンダー」などといういくつかの角度から英語で報告し、Q&Aの時間も設けます。なお、Q&AにはJICA事務局の逐次通訳者が入ります。

教員・学生の声

 これまでもゼミ生とJICA研修生との交流は、何度も行ってきました。学生からは「4年間で最も印象に残った経験」「準備が大変だったけど、いろんな国の人と話ができて、楽しかった」という声が寄せられています。

行政と連携した試み
田代洋久 教授(都市政策、地域政策)
「文化まちづくり政策をテーマとした政策実践プロジェクト」
(2016年度~)

 政策科学科の授業科目である政策実践プロジェクトを、SDGsの17のゴール中、「8.働きがいも経済成長も」「11.住み続けられるまちづくり」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」と関連付けながら展開中です。

 このプロジェクトは、地域の持続性に向けた地域再生や地域経済の活性化などを目的としたもので、弊ゼミに所属する2~3年生が行います。まず第1ステップとして、対象とした地域に関する公開資料や公的統計データなどを基に地域分析を行った後、第2ステップとして、実際に現地に赴いて政策担当者からレクチャーを受け、関係者へのヒアリングなどによるフィールド活動を行います。第3ステップでは、集めた資料や現地での情報をもとに、学生視線での政策アイデアを考え、第4ステップで政策提案を行うなどの実践的な政策研究を行うものです。 とりわけ、政策アイデアの検討では、先進事例を深く調査するとともに、実現性や政策効果を勘案したオリジナリティを有するクオリティの高い提案を目指しています。

これまでに、北九州市だけでなく、大分県臼杵市、熊本県山鹿市、韓国釜山市などで実施してきました。テーマは、文化的資源を活用したまちづくり、韓国釜山大学デザイン学部とのコラボによるコンテンツによる都市再生、東田地区ミュージアムパーク創造事業への参画、歴史的資源を活用した温泉地再生などで、市役所をはじめ商工会議所、商店街、NPO法人などとも連携して実施しています。

2020年度は新型コロナウイルスの蔓延により、対面での成果報告ができなかったため、ビデオ動画を作成して先方にお送りしたところ、課員全員が閲覧したうえでコメントやアドバイスをいただくなど高く評価をしていただきました。

教員の声

 持続できる地域をいかにして創造するかは、どこも切実な政策課題です。地域のもつ自然、歴史、文化といった資源を活用しながら、経済も、地域社会も、環境や文化もバランスをとれた持続的なまちづくりを実践することが求められています。こうした課題に対して、私たちは、フィールド活動を行いながら実践的に役に立つ政策提案を行うことを目標としています。これはSDGsの理念とも深く関わると思います。

学生の声

・政策実践プロジェクトを通して、政策立案は机上論だけでは行えないということを実感しました。プロジェクトでは政策提案を目標に、事前調査やフィールドワークを行いながら検討を進めましたが、現地へのフィールドワークに行ったからこそ知ることができる情報が非常に多かったです。
・成果報告会では市の幹部の方を前に発表を行い、学生視点からは気づけない点を指摘されたり、踏み込んだ内容まで議論することができ、とてもよい経験となりました。


ジェンダー・ダイバーシティに配慮した教育環境

2021年度研修

多様な性的志向や性自認のあり方に配慮した教育環境の構築が急務になっています。本学では、通称名使用についての要件を改善するなど、これまでにも多くの取り組みを行ってきました。

法学部においても、LGBTQの学生に対して、より適切な教育環境を提供するため、授業での各人の呼称や学生支援のあり方をめぐって、関連部局職員と教員がともに意見を交換し、考えていく研修を行いました。

法が導く公正な社会、そして適切な政策に支えられた理想的な民主主義を実現するために、多様性への配慮は欠かせません。まずは教育現場から、知恵を出し合って未来を変えていく試みを、これからも継続していきます。


当日の研修資料の一部