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学部・学科紹介

政策科学科の紹介

政策って何だろう?

 私たちのデイリー・サイクルおよびライフ・サイクルを考えてみて下さい。それだけでも、私たちがいかに多くの政府や行政の活動と接しているかがわかると思います。ここでは、デイリー・サイクルを見ることを通じて政策とは何かについて考えることにしましょう。
 朝、起きて顔を洗い、食事をし、歯を磨きます。そのとき使われる水の供給と排水の処理、ゴミの収集や処理は市町村の仕事です。外に一歩出れば道路に出ます。それは都道府県道であったり、国道であったりします。このようにこれらの施設の建設や管理を行い、サービスを提供しているのは、市町村や都道府県や国です。

 通勤・通学にはバスや電車を利用しますが、それらの公共交通機関のサービスの提供者は公営企業や私企業です。しかしバス停や電車の位置を決めるのは国の行政機関である国土交通省です。さらにその路線や他の交通システムの関係は、運輸・交通政策によって決められたものですし、都市政策とも無関係ではありません。

 小・中・高の学校に関する教育方針は県や市町村の教育委員会が、そしてそのもとになる教育政策は国の文部科学省によって作成されるとともに、国の立法機関である国会の政策審議にかけられたものです。会社の設立や事業内容についても関係行政機関への届出や許可・認可がいります。

 会社や学校が終わった後はどうでしょうか。学校や会社の帰りに立ち寄るさまざまな店でも、やはり行政の営業許可がいるのです。帰宅後、リラックスしてテレビを見ます。テレビ局の設置には総務省の免許がいりますし、それとて世界的な情報通信政策に関連しています。
 最後に寝る家は、それが集合住宅でも一戸建てでも、建設には役所の建設確認がいりますし、その市町村の都市計画に沿ったものかどうかもチェックされます。

 このように中央政府でも地方政府でも、これらの政府活動や政策にはさまざまな権限や権力が備わっているために、市民生活に大きく影響しているのが現状です。しかしこれらの政府活動において、公的機関がどのように政策を形成したり実施したりしているのか、ご存じですか。
 一般に政策(policy)とは、「問題解決のための手法」(松下圭一)、あるいはある(政治的)目標を有し、その目標を達成するための計画を示したものです。従来、政策や公共部門の研究は、政治学・行政学・法律学・経済学・経営学・財政学・社会学・管理科学・システム工学・情報工学・心理学といった学問的領域からアプローチされてきました。それは、政府活動や政策そのものが法律や経済とも深く関係しているからです。

 政策科学は、政策目標に対して複数の選択肢が存在することを明らかにし、その中から何が最善のものかという政策の内容、あるいはそのような政策を立案・決定・実施する過程、実施方法や政策効果の事前・事後の評価などに関する学際的アプローチです。今日、少子・高齢化、情報公開、地球規模での環境破壊、冷戦の終結と地域紛争の激化、経済や情報のグローバリゼーションなど、地域(都市)・中央(国家)・国際(世界)の各レベルで生じている事象、あるいはそこから派生する諸問題を科学的に探求し、政策提言を含む研究情報を発信して現代社会の要請に応えることが必要とされています。政策科学は、まさにそれに相応しい学問領域だと言えます。

 政策を冠した学部・学科は、全国でもすでに70近く存在します。たとえば立命館大学には政策科学部、慶応義塾大学・関西学院大学・中央大学には総合政策学部、同志社大学には政策学部、愛媛大学・千葉大学には総合政策学科、また関西大学には政策創造学部などがあります。しかし全国的に見て、国公立大学の例は少なく、また九州には、政策科学科、あるいはそれと同種の学科はごく少数しかありません。
 北九州市立大学法学部政策科学科は、学界でも評価の高かった政治学科・行政学科の伝統を受けて、政治学・行政学を土台にした広義の政策研究(policy studies)を行うための教育・研究組織として、2000年に新たに発足したものです。

なぜ政策を学ぶ必要があるのか?

 今、日本は、官僚主導型の行政や経済運営の行き詰まり、中央・地方政府の財政破綻、少子・高齢社会の到来、人口減少社会への突入、単身世帯の急増、環境問題など、実に多くの問題を抱えています。その意味では、単に20世紀から21世紀への転換というだけでなく、真の「時代の転換点」に差し掛かっていると言えます。

 この転換点に当たって有効な処方箋の一つとされているのが、「行政国家」化の行き過ぎを改める行政改革です。つまり民営化や規制緩和を進めて民間を育成し、地方政府(地方自治体)に権限を委譲して、中央政府を「小さな政府」にしていこうというわけです。
 もちろん行革が進んでも、中央政府の役割が全く失われるわけではありませんが、今後は、中央からの権限委譲の受け皿である地方政府の役割が増大し、地方政府の施策がこれまで以上に重要な意味を持つようになります。したがって地方行政に影響を及ぼす国家公務員だけでなく、地方公務員も政策立案能力の一層の向上が求められます。公務員の政策立案能力を高める教育を行うことは、政策を通して、地域住民に対するサービスの向上という形で還元されることになるでしょう。

 しかし公立大学は公務員のためだけに存在するわけではなく、かつ政策科学は公務員の政策立案にだけ資するものでもありません。たとえ実務経験を有している社会人であっても、複雑化した現代社会の中で、どこに問題があるのかを的確に把握し、その解決のためにいかにすればよいのかを見通すことはきわめて困難です。にもかかわらず、今後、地域住民も地域産業も、政府の手厚い保護に頼ることなく、「自己責任」に基づいて「自己決定」することが求められるでしょう。

 言うまでもなく地域社会は、さまざまな問題を抱えています。昨今、地域的問題を、議会の意思だけに委ねず、住民投票を行って決めようという動きが増えています。他方で、個々の有権者が、選挙の際、望ましい政策を掲げる政党や候補者を選んで投票することができず、棄権が年々増大する傾向にあります。こうした事象は、地域住民一人一人が、上から発せられる政策を甘受するのではなく、その政策の是非を判断する能力を持つ必要があることを示唆しています。さらに近年、市民団体が国会の立法を促すという例がありますが、地方レベルでも地域住民が、政策を提言し、地方議員を動かしていくことがありうるでしょう。以上のような意味で、地域住民に対して政策についての教育を行うことはきわめて重要であり、地域社会の活性化につながると思われます。

地域社会にはどんな政策課題があるのだろう?

 北九州市は、1963年2月、小倉・門司・八幡・戸畑・若松の5市が合併してできた九州最初の政令指定都市です。この地域は、20世紀初頭の官営八幡製鉄所の開設以来、製鉄業を中心に発展した「鉄の街」で、かつては四大工業地帯の一つとして知られました。
 北九州市は、世界でも珍しい5市対等合併によって誕生し、本来は多角的都市として発展するはずでしたが、「旧市意識」が長く残り、たとえば公共施設も、必要に応じて建設されるというよりは、「旧市」単位で「均等」に建設されるというような非効率な発展を遂げてきた面があります。一方、「重厚長大」から「軽薄短小」への産業構造の転換は、北九州工業地帯の地盤沈下を招くことになりました。そうした中で、北九州市を再活性化するために1988年に策定されたのが「北九州市ルネッサンス構想」です。この構想の下で、「都心・小倉、副都心・黒崎(八幡)」という方向性が明確に打ち出され、新しいまちづくりが始まっています。

 北九州工業地帯の地盤沈下と長引く不況は、工場の閉鎖・縮小を招き、北九州市の人口は98万人弱にまで減少しています。それに伴い、労働力人口も減っており、北九州市の少子・高齢化は、全国平均を上回るスピードで進行しています。それは、同時に税収が減少していることを意味し、市の財政状況は必ずしもよい状態にあるとは言えません。さらに2000年4月からは介護保険制度が導入され、市町村単位で運営されています。北九州市では、従来、小学校区を単位とした高齢者福祉が実施されてきましたが、行財政改革、雇用を創出する産業誘致・新産業育成とともに、高齢者・児童の福祉・医療等のあり方も再検討の必要があるでしょう。

 北九州工業地帯が活況を呈していたころ、「七色の煙」が空を覆うことが工業都市としての活気のよさと等置されていました。しかしそれは、反面で、喘息患者の増加を招き、また洞海湾も工業廃水で「死の海」と形容されるほど水質汚濁が進むなど、公害という負の面を生み落とすことになりました。今日、北九州市は、民間の協力を得て公害を克服した街として知られ、海外に環境技術協力を積極的に行っています。また、2011年にはOECDによりグリーン成長に関する世界のモデル都市にアジア地域で初めて選定されました。

 さらに関門海峡等に面する北九州地域は、昔から交通の要衝であり、本州との接点であるとともに、北部九州・東九州への起点となっています。それと同時に、アジア各地との貿易の窓口ともなっており、市もアジアとの交流に力を入れています。すなわち北九州は、都市問題、福祉問題、環境問題、アジアとの関係などをめぐって、多くの政策課題を有しています。政策科学科は、以上のような政策課題を分析し、どのような政策をとることが望ましいかを研究する学科です。

政策科学科の理念

 21世紀になり、政府が市民生活の中で占める役割はますます増大しています。地方自治体(地方政府)も、独自色を発揮することが強く求められるようになっており、その活動領域は地球的規模に拡大しつつあります。つまり政府と市民生活との関わりはますます重要になってきています。そうした政府と市民生活との接点にあるのが政策です。

 政策科学科では、このような政府と市民生活との関わり、とりわけその接点となる政策についての基本原理を学び、個別的・具体的な政策課題を発見・分析する能力、政策立案能力を備えた政策志向型の人材を養成するために、地域(都市)・中央(国家)・国際(世界)の諸問題を扱う政策科学の基礎的・理論的学科目や現状分析的・応用的な政策論的学科目を体系的に配置しています。とくに近年、地域レベル、国家レベル、国際(世界)レベルを問わず急速に増えつつある複雑な諸問題についてのアップ・トゥ・デートな教育を目指しています。

政策科学科の教育目標

① 現代社会が複雑になる中、政府と市民生活との関わり、とりわけその接点となる政策についての基本原理を知悉し、個別的・具体的な政策課題 を発見・分析する能力を備えた人材を養成し、地域住民一人一人の政策に対する判断能力を高めます。

② 政策課題を発見・分析する能力、政策立案能力を駆使して、地域社会の諸問題、あるいは地域社会の国際化によって生じる諸問題を解決し、地域社会に寄与できる人材を育成します。

③ グローバリゼーションが進む中で、さまざまな観点から自主的に物事を捉え、かつ既存の発想に囚われずに新たなものを生み出せるような人材を育成します。

④ 地域住民や政策に携わる公務員などの再教育を積極的に行います。

政策科学科の特色

政策思考のカリキュラム編成

 「公共政策論」「政策過程論」「政策評価論」「政策調査論」「都市政策論」「福祉政策論」「環境政策論」「政策規範論」「公共経営論」「地方行政改革論」「地域統合論」「途上国開発論」「NPO論」「政策理論特講」「応用政策特講」「政策実践特講」など、政策指向の学科目を多数配置しています。

学科目群の採用

 政策に関する理論を追究する政策理論科目、現代社会のヴィヴィッドな問題を解決するための知識・見識を養い、実践力の基礎を形成する政策実践科目、政策と密接に関連する法の知識を獲得する政策関連法科目の各々から一定以上の科目を履修し、政策構想力・政策立案能力を養成していくことを目指します。

自己決定の重視

 政策科学科専門科目における必修科目は、政策科学入門Ⅰ・Ⅱ、政策入門演習、卒業研究です。以上の科目以外は、選択必修科目・選択科目であり、学生の主体的な関心と必要に基づいて積極的に学習することを求めます。それは、法学部の理念にある「各人のニーズと自主的な選択」を尊重し、その中から既存の枠に囚われない新しい学問的知見を主体的に学生自身が生み出すことを期待しているからです。  しかし政策科学科では、政策理論科目・政策実践科目・政策関連法科目という選択必修の科目群を設定するとともに、原則としてセメスター制を導入することなどによって、段階的・系統的履修が可能になるよう配慮しています(ただし配当セメスターは、年度によっては、教員の留学等の事情により、同一学年次の範囲内で変更されることがあります)。また、演習Ⅰ~Ⅲは必修と同様に極めて重要な科目として位置づけ受講をすすめています。